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Selfishly

Selfishly

6, 「温もり」  18禁


6:温もり


H18,4/23 21:00


ざわざわと喧騒が広がる司令部では、
扉を1枚隔てただけでは、その喧騒からは完全に隔たれない。

そんな中で、ロイは 黙々と面白くもなさそうに
目の前に積み上げられた書類を淡々と片付けていた。
最近は、やたらと逃亡して仕事を溜めることもなくなった上司に
彼の副官も、ホッとしているところだ。
何故、仕事を溜め込まなくなったのかの理由は
当人のロイにしかわからないが、彼女にしてみれば
理由は どうであれ、仕事を溜めないことが最良の結果なので、
あえて、その「理由」を聞こうとも思ってはいなかった。
・・・薄々は、勘付いていたにしても・・・。


「失礼しまっ~す。
 大佐、例の街からの その後の報告が届きましたよ。」

ハボックが扉を開けて入ってくると、
外の騒がしさが、いっそう酷くなって部屋まで伝わってくる。
ロイは、面白くもない書類から顔を上げて、
気が惹かれた ハボックの言葉に興味を示す。

「その後、どうなってる。」

「う~ん、あんまり良くないっすねー。
 市民同士の抗争に、軍が介入しちゃったもんですから
 収拾は早くなりそうっすけど、街は壊滅状態に近くなってます。
 逃げ出す住人も かなりいるみたいですよ。

 まぁ、軍の介入の仕方も悪かったんでしょうが、
 結構、市民の方も抵抗が激しくて
 思ったよりてこずって、長引いてるからドロ沼っすね。」

ハボックは、困ったように頭を掻きながら
目の前の書類から報告を拾い上げて伝える。

「鎮圧に出かけてるはずが、被害が増大してる・・・か?」

ロイが、小馬鹿にしたように鼻を鳴らしてつぶやく。

「鎮圧部隊の司令官はハクロ将軍だったな。」

「そうっす。
 あのおっさん、鎮圧に出かけて
 何を勘違いしたのか、武力制圧でかかったもんだから
 市民の反発も並じゃーないですよ。
 
 俺、その後の あの街に行かされるのだけはゴメンですね。」

軍は、大抵は どの街でも やや疎まれる傾向にあると言うのに
武力制圧で抑えた街などは、市民からの反感も恨みとなって蔓延する。
そこで、住む事を強制される兵士にとっては
余りありがたくない環境で過ごさねばならないことが
予想されるだけあって、気が重くなる状況だ。

「全く、将軍も何をやってるんだか・・・。

 おおかた、早期に結果を挙げて 功を狙ったのだろうが、
 自分の実力を、もう少し 把握して行動してもらいたいものだ。
 
 おかげで、こちらの評判まで下がることになる。」

忌々しそうに吐き出すロイの言葉に、ハボックも同感と
うなずいている。

「んで、この報告は 今まで同様扱いでいいんっすね。」

確認をしてくるハボックに、ロイがうなずきながら返事を返す。

「ああ、取りあえず 鎮圧が終わるまでは
 機密扱いにして、閲覧は不可にしておく。

 それと この事は。」

ロイが 念を押して続けようとした言葉を
ハボックは正確に読み取ってうなずく。

「わかってます。
 大将の耳には入れるなってんでしょ?」

「ああ、鋼の事だ。
 自分が 行った任務の結果がこれでは、
 また、飛び込んで行きかねないからな。」

「そうっすねー。
 どうせ、遅かれ早かれ 軍が介入する事にはなってたでしょうが、
 発端が自分にあるってのは、嫌っすからね。」

しみじみと話すハボックに、ロイの目つきが険しくなる。

「ハボック、口を慎め。
 鋼は、任務として 教団の内情調査と、
 出来れば動きの阻止を言われて行ったに過ぎない。
 任務は完遂して成果を上げたのだから、
 その後の事は、彼には関係ない。」

厳しい口調で告げられた言葉に、ハボックも姿勢を正して
返答する。

「はっ!申し訳ありませんでした。」

思わず敬礼して上げた手を降ろすと、
また、普段の彼の態度に戻り
ロイを窺うように話しかける。

「でも、本当にいいんっすかね。
 大将に伝えないでおくのって・・・。」

「・・・いずれは知るときが来る。
 常に正義が勝つわけでも、
 正論が正しいわけでもないのが、この世界だ。

 だが・・・、まだ彼らに強いて教える必要もないさ。」

(いずれは、知らねばならない事なのだから・・・。
 世界の不条理も、大人の汚さやずるさも。)

ロイが飲み込んだ言葉が聞こえたかのように
ハボックもうなずく。

「そうっすね・・・。
 あいつら、しっかりしてそうでも
 まだ、子供なんですよね。」


「お話中に申し訳ありません。
 決済済みの書類を頂きます。」

互いに自分の考えに浸っていた二人が、
ふいに傍でかけられた声に驚いて、意識を現状に戻して返事を返す。

「おわ、ビックリした~。
 中尉、お疲れさまっす。」

ハボックは慌てて、中尉に場所を空ける。

「中尉、君らしくも無い。
 入ってくる時は、ノック位したまえ。」

ロイが渋い顔をして、そう告げると
中尉は 一瞬、不思議そうな表情を浮かべたが、
すぐに表情を改めて、謝罪を告げる。

「申し訳ございませんでした。
 扉が開いてましたので、お気づきかと思い
 そのまま、入ってきてしまいました。」

軽く礼をすると、置かれている書類を取り上げる。
そうして、横に置かれているソファーセットの方を眺めてから、
怪訝そうに周囲を見渡す。

そんな彼女の行動に、二人が妙に思って互いに声をかける。

「どうしたんっすか?」

「何か探しものかね?」

二人の問いに、首を傾げながらホークアイ中尉が聞いてくる。

「あの、エドワード君は もう帰られたのですか?」

「大将?」
「鋼の!?」

大げさに驚く二人に、ホークアイ中尉も驚いて言葉を続ける。

「ええ、先ほど私が司令部を 少し出るときに入ってきたんで
 てっきり中に入ってるものだと思ったんですが、
 こちらには入って来てません?」

おかしいわねと呟きながら、扉の向こうに残っているメンバーに
声をかける。

「エドワード君は、どうしたのかしら?」

一番手前に座っていたファルマンが返事を返す。

「ああ、エドワード君なら 司令室の前で
 少し待っておられたようですが、
 中のお二人の話が 長引きそうだったんで
 また出直すと帰られましたよ。

 彼にしては、珍しい事もあるものですね。」

笑いながら告げてくる言葉は、
エドワードを知っている者なら、皆 同感と思うだろう。
普段の彼なら、相手の都合に頓着せず
自分の要求を告げるのを優先する事が多いからだ。

扉向こうのファルマンの言葉が、扉の中まで良く聞こえてくる。

「大佐。」
「ああ。」

互いに顔を見合す ロイとハボック。
二人が 心中の中で思った事は同じ事だ。

(聞かれたな。)

「ハボック。」
短く名を呼ぶロイに、ハボックは即時行動に移す。

「はっ! 大将の後を追います。」

返事をするや否や、司令室を飛び出すハボックに
ホークアイは 戸惑いながらロイを見る。

「中尉。
 鋼のを イーストから出すな。
 抵抗するなら 強制的に拘束しろ。
 逆らえば、規律違反として取り押さえて構わない。」

ロイの厳しい言葉と表情から、何かを察したのか
ホークアイは 敬礼をして、すぐさま指示を実行するために
自分の机に向かう。

ロイは、どっさりと力なく椅子に凭れて考える。
(まずい事になったな・・・。
 知るにしても、もう少し状況が有っただろうに。)
今、受けているエドワードの心中を思うと
思わずロイは 深いため息をついた。



1時間後、駅で取り押さえられたエドワードが
ロイの元に、強制連行されて連れられてきた。

不満をあらわにし、だんまりを決め込んでいる
エドワードの横に立つハボックに声をかける。

「被害状況は?」

「はっ、駅構内での建物の変形が少々。
 取り押さえにかかった兵士、数名が かすり傷を負った位っすね。
 建物の方は、弟のアルフォンスが 今、修繕中です。」

「ご苦労、下がっていい。」

「はい、失礼します。」

ハボックが 扉を閉めて出て行くと、
室内には ロイとエドワードの二人だけになる。
気まずい沈黙が漂う中、
先に我慢が出来なくなったのは、やはり子供の方だった。

「・・・なんで、黙ってたんだよ。」

「何をかね?」

余裕の無い子供とは違い、ロイはあくまでも余裕の態度を崩さずに答える。

「何をって!
 あの街の事だよ!

 俺が 戻ってから、あんな事になってたって
 何で知ってて、教えてくれなかったんだ!」

噛み付くような勢いで叫ぶエドワードを見つめ
ロイは 冷酷な瞳でエドワードを見返す。

「何故、君に教える必要がある?
 軍の機密事項には、君には教えれない事等山ほどある。

 何かね、君は。
 軍に起こる事全てを知る権利でもあると言うのかね。」

ロイの正当な返事に、エドワードが口を噤む。
小さな身体を、抑え切れない怒りで震わせている様は
ロイの中の嗜虐心をくすぐる。

「・・・でも、あんたは知ってたんなら
 言ってくれても良かったじゃないか。

 もとはと言えば、俺が行って引き起こした元凶なんだから。」

苦しみに耐えながら吐かれる言葉には、
先程の勢いは消え、手ひどい傷に耐えながら告げられているのが
聞いているロイにも伝わってくる。

「鋼の、以前の君の言葉を借りれば
 『罪を犯したのは 向こうで、自分ではない』のだから、
 君が 気にする問題ではないのではないかな?」

「でも!」

言い返そうとするエドワードの言葉を
ロイは 声を強めて遮る。

「鋼の。
 君に課せられた任務は、もう とうに終わっている。
 あの街の事は、現在 軍の采配におかれている。
 一介の国家錬金術師ごときが、口を挟む事ではない!」

厳しく言い放たれた言葉に、エドワードは信じられないと
瞳に浮かべてロイを呆然と見返す。

エドワードには酷だが、ここで追求の手を緩めてやる事はできない。
彼のしぶとさは、ロイは嫌というほど知っている。
生半可な事では、彼の行動も考えも止めることは出来ない。
とことん叩いておかないと、彼の足を止めて時間を稼ぐことが出来ないだろう。

「今更、君が のこのこ出て行ってどうする気だったのだね。
 市民に同情して軍に刃向かえば、即刻 資格が剥奪される。
 それだけでなく、軍の反抗分子として捕らえられ
 君だけでなく、弟や関わりのある人間全員に嫌疑がかけられるんだぞ。
 後見人の私も同様で、それだけでなく 司令部全部に嫌疑がかけられる。
 司令部を上げての謀反と言われても、おかしくない状況になるんだぞ。

 君の正義感は ほどほどにしたまえ。
 全てが、自分の価値観どうりで進むと信じているほど
 君は 子供なのか。」

ロイの厳しい追及に、エドワードは 拳が白くなるほど握り締め
顔を項垂れて耐えていた。
そんなエドワードを、痛ましそうに見た後
ロイは、隣に控えているだろうハボックを声高に呼ぶ。

「ハボック!」
寸瞬の間もなく、扉が開いて返事が返る。

「はっ!」
敬礼して立つハボックに、ロイが語気きつく指示を出す。

「鋼のを、私の家に送って監禁しておけ。
 
 もし、逆らったり 抜け出そうとしたら
 遠慮なく 軍務規律違反として、取り押さえろ。
 もちろん、その時は 弟の身柄も 拘束しろ。」

ロイの厳しい指示に、ハボックは 痛ましそうにエドワードを見るが
それが、今は1番最良な事もわかっているので
何も言わずに指示に従う。

「わかりました。
 鋼の錬金術師殿を送り届けて警護に当たります。」

それでも、ロイの心情も、エドワードの辛さもわかるので
言葉は、双方の想いを汲み取った言葉になる。

「行こうぜ、大将。」
エドワードの肩に手を置いて、出るように促す。

渋るように立ち尽くすエドワードに、ハボックは宥めるように
何度も促す。
ようやく顔を上げたエドワードが、ロイを一睨みして
踵を返そうとした瞬間、ロイから冷静で冷徹な言葉がかけられる。

「鋼のわかっているとは思うが、
 もし、抜け出そうなど考えた時には
 時計は置いていけ。
 軍も、私も そこまで甘くないぞ。」

それは、エドワード達の目的を叶えるのをあきらめるという事に近い。
軍の力とロイの保護のおかげで、エドワード達は旅を続けていられるのだ、
今、どちらに手を引かれても、エドワード達の目的への道は
0ではないが、限りなく難しくなる事はわかっている。

エドワードは、一瞬 足を止めたが
すぐに敢然と顔を上げて、歩き出して出て行った。

ロイは 人気のなくなった司令室で、苦渋の表情で何も無い卓上を
見つめていた。

「どうぞ。」
横から、湯気の立つ熱目のコーヒーが差し出される。

差し出した本人を見ながら、ロイが苦笑を浮かべながら問いかける。

「怒らないのかね?
 子供に厳しすぎると?」

ホークアイは、静かに首を振り 控えめに返す。

「いいえ、エドワード君の為を思えば
 あれ位言わなくては、彼の身が危険になりますから。」

「そうか。」
ロイは差し出されたコーヒーに、口をつける。
いつもなら美味しく感じられる苦味も、今は味を感じる事もなく
ただただ 自分の心境と同様の味を感じながら
身体の中に流し込んでいった。





「なぁ、大将。
 絶対に抜け出そうなんて、考えるなよ。
 大佐が戻るまで、じっとしててくれよ。」

懇願ともとれるようなハボックの物言いにも、
エドワードは 返事を返すでもなく
じっと、座らされたソファーの上で黙っていた。

いつも、元気がいいエドワードだけあって
こんな彼に どう接すればいいのかとオロオロするハボックは
ひたすら 大佐が戻ってくるのを願っていた。

定時を過ぎてしばらくしてから、
やっとハボックの待望の人物が戻ってきた。
エドワードには、座っているようにと念を押して
ロイの迎えに玄関に急ぐ。

「お疲れさまっす。」

心なしか憔悴しているロイに
ハボックが報告をする。

「今、リビングで座ってます。

 大将、戻ってからも一言も口をきかないんっすよ。
 文句とか言ってくれた方がマシですよ。

 なんか、可哀相で見てるほうが辛いっす。」


「そうか、ご苦労だった。
 もう上がってくれて構わない。」

そうハボックに告げると、ロイは リビングに向かう。

そのロイの背中に、ハボックが恐る恐る声をかける。

「あのぉ・・・、大将も十分 解ってると思うんで
 あんまり厳しい事は、もう・・・。」

「大丈夫だ。」

そう言って去って行くロイを見ながら、ハボックもため息をつく。
ここから先は、自分では どうしようもない。
エドワードが、今後 余り傷つかないでいて、欲しいし
ロイの逆鱗に触れるような事がないのを
ただ願うばかりだ。
後ろ髪を引かれる思いで、ロイの家から帰っていった。


リビングに入ってみると、まるで人形を置いたかのように
微動だにせずに座っているエドワードがいた。

「遅くなってすまない。
 お腹がすいたのではないかね?
 帰りに適当に見繕ってきたんで、食事にしよう。」

キッチンに移動するのもめんどくさく、リビングのテーブルに
買ってきた物を置く。
まだ湯気が出ている食べ物たちは、二人で食べるにしては
多いような気もするが、食欲を満たす物をと考えて選んでいる内に
増えてしまった。

ロイは 上着を脱ぐだけにして、エドワードと向かい合わせに座ると
エドワードに食事を勧める。
食事を取る気にもなれないのか、手を出さないエドワードに
「命令だ」と言って食事を取らせる事にする。
不満そうな素振りを隠さずに、渋々 食事を始めるエドワードを
ロイは、ホッとしたため息を心でついて、自分も食事をはじめる。
折角の料理も、消火にも良くはないだろう気まずい雰囲気は
酒でも飲みたくなるが、前回の事も有り
アルコールは控えたほうが無難だと自制する。

早々に食事を食べ終えると、エドワードは自分でさっさと片付けて
初めて口を開いた。

「で、今後 俺は どうすればいいわけ?」

戻ったら、彼の性格だから 言いたい放題言うだろうと思っていただけあって
だんまりを決め込んで、大人しく指示に従っているエドワードに
妙な焦燥を感じていたロイは、安堵する気持ちを浮かべた。

「君には 1週間の監視期間を設ける。
 従えるなら、ここで居なくても構わないが
 イーストシティーから出る事は禁じる。」

「わかった。
 で、もう 宿に戻ってもいいのか?」

妙に落ち着きを装うエドワードには違和感をぬぐえないが、
下手に暴れられても厄介な相手なだけあって、
ロイも それ以上の事は望まないようにする。

「いや、今日は このまま私の家で居てもらう。
 明日出るときには、時計は預けてもらおう。」

そう告げると、不満げに眉を寄せたが 「わかった。」と返し
ソファーに座り込んで黙り込んでしまった。

ロイは そんなエドワードの態度にあきらめのため息をつきながら
部屋の準備をしに出る。
ロイには エドワードが何を考え巡らせているのかが
嫌と言うほどわかる。

この小さな子供は、またしても 自分で背負い込めない事を
自分の責任のように考えているに違いない。
小さなナリに反比例して、彼は 度量が広く
大抵の事は、自分が請け負ってしまう。
それが、自分を苦しめる事になっていたとしても。

自虐主義の極みのような彼だが、普通とは違ったのは
それをなんとかする力を持っていた事だろう。
だから、普通の子供が考え及ばない事まで考えめぐらせ、
自分の逃げる道を自分で塞いでしまう。
結果、自分が傷ついてしまうのだが・・・。

客間の準備が出来たところで、そう言えば風呂もまだだったと
ロイは リビングに戻る。
戻ってみると、先ほどから 微動だにしなかったのかと
思われるように、座ったままでじっとしている。

ロイは戻ってから何度目になるかもわからないため息を飲み込み
エドワードに声をかける。

「鋼の、部屋の準備は出来たから
 休む前に 風呂に入ってきなさい。」

ロイが そう声をかけると、
エドワードは まるで言うとうり動く人形のように
ロイの後を付いてくる。

「使い方は、一般と変らないから大丈夫だと思うが。
 着替えは こちらで用意しておくんで、
 それを使ってくれ。」

世話を焼くロイに、特に感慨を持ったふうでもなく
エドワードは言われたとうりに風呂に入る準備のため
着ている服を、さっさと脱ぎ始める。
上着を脱ぎ、下に着ているシャツも脱ぎ捨てて上半身を見せると
思わずロイは、その身体を凝視した。
小さくても均整が取れた身体は、薄く筋肉がついており
彼が 鍛えているのが良くわかる。
が、ロイが目がいったのは それだけでなく、
無数に付いた 傷跡の多さだった。
直っているものや、まだ 紅くなっている新しいものや
至る所に付いている傷跡。

エドワードは、自分を見ているロイの視線に気づいて
「何?」とねめつけるような目で、
出て行くように訴える。

「いや・・・、ゆっくり入ってくれ。」
ロイは、静かに扉を閉めると
何とも言えない気持ちを抱いて、キッチンに行く。
酒は 飲まないでいようと思ったのだが、
今は 飲まずには、この心の暗さは払えそうも無い。

冷凍庫から、強烈な寝酒として入れといた酒を出し
グラスになみなみと継いで、一息に飲み干す。
途端、身体がカッとなる熱さにおかされるが、
今の心中の暗い澱みをごまかす程ではない。

(あの傷跡・・・。
 あの傷の数だけ、彼が苦境に立たされ
 乗り越えてきたという事だ。)

そして、身体だけではない。
彼の もっとも深い傷跡は、彼の心の奥底に根付いている。
そして、また新たな傷を負っているのだろう。

ロイは、力なく座り込んだ椅子の上で
誰のためかもわからぬ 深いため息を吐き出した。

そうやって、しばらくしていると
エドワードに着替えを持っていくのを忘れていたことに気がついた。
まぁ、彼の事だから 着替えが無ければ、
脱いだ物を また着てでてくるだろうが・・・。

(まだ、はいっているのか?)

結構な時間がたったような気がしたが、
エドワードが風呂から出てきた気配もない。

(まさか、逃げ出してないだろうな。)

有り得ないと言い切れないのが、エドワードだ。
ロイは 少々焦りながら着替えを用意し、
断りもなく扉を開けて入って行く。

シャワーの音が響いてくるのに、ロイはホッと気を抜いた。
エドワードに着替えを置くことを伝えようと声を出そうとした瞬間、

「バン!」

浴室に不似合いな音が響く。

「くっそー。」
シャワーの音に掻き消されて、よくは聞こえないが
エドワードが、絞りだすように吐かれた言葉が聞こえる。
そして、また 物を力任せに叩きつけるような音が響く。

異変を察知したロイは、閉められている扉を
急ぎ開けた。

「鋼の!」

浴室は、本来ならシャワーをこれだけ出していれば
熱気が充満していてもおかしくないはずなのに、
そこには ただただ、冷たい水と冷気が流れているだけだった。

そして、エドワードを見れば
ロイが 入ってきた事も気づいていないのか、
冷たい水を浴びながら、浴室のタイルに拳を打ち付けている。
打ち付けた瞬間は、紅いものが飛び交うが
それは、すぐさま流されて 排水溝へ消えていく。
ロイは、呆然と その有様を見ていたが、
エドワードが、拳を打ち付ける音で我に返り
濡れるのも構わず、振り上げた拳を引き止める。

「何をやってるんだ!」
ロイが掴んだ腕は、恐ろしいくらい冷え切っている。
ロイは 急ぎ、シャワーを止めて
エドワードを浴室から連れ出そうとする。

「離せよ!
 離せ!
 くっそー、俺は本当に馬鹿だ!

 1度ならずに2度までも、同じ事を!」

暴れるエドワードを押さえつけるようにして
ロイは エドワードを浴室から連れ出す。
叩きつけられた拳からは 血が流れ、
ロイの身体や服にも飛び交うが、そんな事を構ってはおれない。
とにかく、用意しておいたタオルでエドワードを包み、
ほとんど、抱きかかえる状態でリビングへ連れて行く。

強引にソファーに座らせ、押さえつけるが
暴れるエドワードは、なかなか大人しくはならない。

「離せってんだろう!
 くっそー! あんた達は全部知ってて笑ってたんだろ!

 俺が一端の英雄気取りで、偽善を振りまいてていい気になてた
 何にも知らずにいた 俺を!
 俺が原因で、街に戦争を起こしたって言うのに、
  俺は 何にも知らないで、いい気に旅なんか続けてて!

 俺のせいで、皆が苦しんで、死んで・・・死んでいってるのにー!」


「鋼の!」

ロイは、気づいたら、エドワードの頬を叩いていた。
もう言わせたくなかった。
これ以上、自分で自分を傷つけて欲しくなかった。
なんとか止めようとした時に、思わず手が出てしまった己の手を
ロイは 愕然と見つめていた。

ロイに叩かれた事で、エドワードは口を噤んだ。
痛さを感じるには、すでに冷え切っていて何も感じれていないだろう。
その証拠に、目はうつろに見開かれているだけだ。

大人しくなったエドワードの濡れた身体をともかく乾かすことが先決だと、
ロイは 包んだタオルで拭いてやる。
着替えは置いてきてしまったので、自分用にと準備していたバスローブを着せてやる。
髪を拭きあげていると、エドワードが小刻みに震えている事に気づく。
冷え切った身体は、簡単には体温を戻さない。
震えは 段々と大きくなり、しまいには エドワードは自分の両腕で
自分を抱きしめて、額が太ももにつくほど屈してしまう。

「あの時も そうだ・・・。
 アルは 止め様って言ったんだ。
 でも、俺が大丈夫だって。
 間違ってないって、強引に・・・。

 俺は、また 同じ事を・・・。
 考えればわかる事なのに。
 裏切られたとわかった人間が、どんな行動を起こすかなんて
 わかって当たり前な事なのにー!」

エドワードを襲う震えは、どんどんと大きくなり
おこりのようになって、エドワード自身の抑えでは
止めようがない程になる。

それでも、エドワードの瞳からは 涙は流れ出ない。
泣ける程度の辛さなら、まだマシだと言うように・・・。

「寒い・・・、母さん、アル・・・
 寒いよぉ・・・。」

エドワードが、歯の根が合わなくなっている振るえのなか
切れ切れに吐き出されるつぶやきが
余りにも悲愴に響き渡る。

ロイは、一旦 リビングを出て隣のキッチンに行くと
さっきまで自分が飲んでいた酒を瓶毎持ってくる。

瓶毎口をつけると、中の液体を口に含む。
エドワードの前に屈んで、強引に顔を上げさせると
口付けて、中の酒を流し込む。

余りアルコールに強くないエドワードには、
口に含まされた酒は強烈過ぎて、飲み干せない。
戻そうとするのを、ロイは 顔をのけぞらせ
鼻をつまむことで嚥下させる。

ゴホゴホと咳き込むエドワードの背中をさすってやり
息が落ち着くと、同じようにして飲ませる。
2・3度飲ませると、エドワードの抵抗も失せて
ロイが抱きかかえるままに力を抜いて身体を預けてくる。

ぐったりとなっている体は、氷のように冷たくなっており
震えは なかなか治まりを見せない。

「・・・寒い・・・。寒い。
 母さん、アル・・・。」

今は ここに居ない人間に、弱弱しく訴えるエドワードの姿が
ロイの中の 何かを切ってしまった。

「そうか、そんなに寒いのか。
 なら、私が温めてやる。
 母でも、弟でもない。
 私が、お前を温めてやる。」

ロイは、軽々とエドワードを抱きかかえると
用意していた客間ではなく、自室のベットルームに入って行く。
静かにエドワードをベットに寝かすと、
ロイは 自分が着ていた服を 次次と脱ぎ捨てていく。
酒のせいで思考が鈍っているのか、
エドワードは ぼんやりと空中をあおいだままだ。

ロイが エドワードの上に覆いかぶさるように抱きかかえると、
温くもりに縋るように、エドワードから抱きついてくる。
ロイは、そんな冷え切ったエドワードの身体を抱きかかえながら
震えている唇に口付けを落とす。

「冷えた身体を抱きしめていると、
 まるで、君は 氷の女王のようだな。」

溶けない心を誰にも預ける事もなく、
その心に至る扉の鍵さえ、誰にも渡さない、
唯一、心を傾けた肉親以外には・・・。

ロイは 自分の熱を分け与えるかのように
執拗に口付けをする。
薄く開かれた唇から進入し、飲ませた酒の味がする舌を絡ませる。
嫌がる舌を追いかけて絡ませては、吸い上げてやる。
その度に、「くぅーん」と鼻声を鳴らせ ぎゅっと目蓋をつむる仕草が
恐ろしいほど可愛い。

舌を追いかけるだけでは留まらず、
まるで 口内でエドワードを犯そうとするかのように、
角度を変えては、進入する場所を増やしては
よう様な刺激を与えていく。
唾液は とうにどちらのものとも解らないほど交じり合い、
飲みきれない唾液が溢れて、エドワードの首筋を伝って行く。

ロイは、それさえも勿体無いと言う様に、
流れた後を丁寧に舌で辿っては、ところどころ吸いあげる。
白い肌は 跡が付きやすい。
吸い付きすぎないようにとは思うが、
触れる肌の感触に酔わされているのはロイの方で
気づけば ところどころ、紅くなって色づいている。

ロイが吸い上げると、面白いようにエドワードの身体が反応を示す。
ロイは 夢中になって、肌に吸い上げている間にも
手は 次の刺激を与えるために動かしていく。
膨らみは無い変わりに、肌の感触がじかにわかる楽しみを
じっくりと撫でることで味わう。
時々、紅く色づき立ち上がっている乳首を指で捻ってやれば
「あぅっ」と抑えきれない声を上げて、
感じていることを告げてくる。

エドワードが返す反応に気を良くしたロイは、
立ち上がった乳首の片方を舌で嘗めては、唇で吸い上げやる。
その度に、背を仰け反らせては声を上げるエドワードが
可愛くて仕方が無い。
もっと声を上げさせたい、感じさせたいと夢中になって
しゃぶりあげると、エドワードは感嘆にも近い
悲鳴を上げる。

「やぁーっ。」

ヒクヒクと身体をひくつかせながら、上げるエドワードの鳴声は
ロイが 今まで聞いたどの女性よりもロイを煽る。

いつの間にか、冷え切っていたエドワードの身体にも
うっすらと汗が浮かんでいる。
白いシーツにちりばめられた金糸は 鮮やかに輝き、
うっすらと紅く色づいた白い肢体は、艶やかに躍動している。
ロイを見つめる瞳は、快感に溺れて茫洋と見開かれており、
いつものきつい印象を、妖しい雰囲気に変えては
ロイを虜んでいく。

エドワードを温めるはずで始めた行為が、
今では ロイがエドワードの熱を奪い尽くそうとするかのように
その身体に溺れていく。
ロイ自身も、すでにはちきれんばかりになり、
開放を強請って、痛い程張り詰めている。

ロイが、エドワードのモノに手を伸ばすと
概に そこは蜜を溢れさせて立ち上がっている。
宥めるように触れてやると、
今まで なされるがままだったエドワードも
自分が何をされているのかに思い当たったのか
弱弱しい抵抗を始める。

「やっ、やだ・・・。
 そんなとこ・・・、触るな。」

「大丈夫だ。
 今はまだ、酷い事はしないから。
 気持ちよくしてやるだけだ。」

おびえを見せる瞳を、ロイは安心させるように口づけて
閉じさせると、深く口付けを仕掛ける。
ロイの巧みな口付けに意識を奪われている間に、
ロイの手は、エドワードのモノの愛撫をきつくして追い上げる。

「んんん・・・っ」声に出せない喘ぎがもれる頃になると、
エドワードの意識も、快楽に流されて抵抗を見せなくなる。
もともと、初めて人の手に触れられた身体は
登りつめるのにも、さほど時間はかからない。

ロイは、エドワードが射精してしまわぬよう
きつく根元をしぼると、戸惑いなく エドワード自身を口に含む。

「ひやぁ・・・っ。」
ねっとりと絡みつくように嘗め上げると、
エドワードの身体が、快感に打ち震えるようにさざめく。
ロイが丁寧に嘗め上げ、吸い付くと
開放を願うエドワードの分身が、一段と大きくなり
ヒクヒクと震えだす。

「もうっ、もう離せよ!
 手、手を離してー!」

喘ぐ合間に、切れ切れと紡がれる懇願の言葉は
さらにロイを煽っていく。

「どうしたんだ。
 気持ちいいんだろう?

 止めて欲しくないんじゃないか。」

そう意地悪く聞き返しては、愛撫をきつくする。
もがくエドワードが、なんとかロイの手を離させようとするが、
汗と自分の蜜で滑って上手く掴めない。

「大佐・・・、お願いだから もう・・。」
涙を流して哀願するエドワードを見て、
やっとロイは、満足をする。

「では、どうしたいのかね。
 君の望むようにしてあげよう。」
平静に声を出しているつもりだが、
掠れて欲情に濡れている声では、
自分の状態も悟られても仕方ないが
初めての経験で、余裕が無いエドワードには
わからないことだろう。

ロイ自身、エドワード同様に もうさほど余裕ぶっている時間がない。

「手、手え離して・・・。」

「離して、どうしたいんだい?」

「いかせて・・・、いきたい。」
必死に言葉を告げるエドワードには、
今 自分が口走っている事はわかってはいないだろう。
少しでも理性が残っていれば、プライドの高い彼のことだ
憤死しかねない。

「そうか、わかった。
 じゃあ、覚えておきなさい。 
 
 この快感は、私が与えているという事を。
 君に、今から与えるものは 
 誰でもない、この私が与えている事をな!。」

そう言いきると、ロイは根元を縛っていた手を解き
最後の愛撫を施す。

「・・・・!」
焦らしに焦らされた開放は、エドワードに強烈な快感を与える。
身体を仰け反らせ、足の指は固く丸まったまま
受け取っている快感を現したまま、エドワードは 声にならない悲鳴を上げて果てる。
ヒクヒクと溺れる魚のように跳ねる体から、
最後の一滴まで吐き出させると、エドワードは意識を飛ばしてしまった。

「おやおや。」
そのまま熟睡を決め込んだエドワードを見て、
ロイは苦笑を浮かべる。
そして、ロイ自身解放して欲しがる分身を宥めて浴室に行って済ませると、
エドワードを綺麗にしてやり、もともと用意していた着替えを着せてやる。

汚したベットの代わりに、用意した客間に移す間も
エドワードは、ぴくりとも動かずに寝ていた。
ロイは そんなエドワードの横に入りながら、
落ち着いた呼吸を繰り返す、薄く空いた唇に軽く口付ける。

浴室で抱きしめたときには、失われていた体温も
今は 子供らしい、少々高めの体温を伝えている。
ロイが 横に入ると、温もりを求めてか
エドワードが 擦りよって来るのが、
嬉しくて、幸せで、思わず微笑んでしまう。

ロイは 暖かな温もりを伝える小さな身体を抱きしめる。
今日だけでも、彼が 罪の意識からも離れて
安らかな眠りの中にいれるようにと願いながら・・・。




[ あとがき ]

かなり、自分なりに頑張ったエロ・ロイエドです・・・。
なかなか、書くには恥ずいものがあり
何度も 手を休めては、気合を入れての繰り返しでしたが。(苦笑)
もともと17WORDは、大人向けにと思って取り組んだお題なんで、
ちょっとは 大人向けになったかも?
今は、これくらいで許してください! (;¬_¬)


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